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書評など

書評の仕事 印南敦史

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はじめに

書評の書き方についてわからないことが多く,書評を書く技術に関する本を読みたいと思っていました.そのタイミングでAmazonで見かけたため購入しました.

著者の印南敦史(いんなみ あつし)氏は「ライフハッカー[日本版]」や「東洋経済オンライン」,「ニューズウィーク日本版」など多数の媒体で書評を掲載しています.年間でなんと500本以上もの書評を書いています.私がたまたま読んだ記事が印南氏が書いたものだったこともありました.

概要

本書は「書評とは何か」から始まり書評家の仕事や書くための技術,他分野への応用などが述べられています.書評の目的は「読者のためにその本の内容を紹介・批評すること」であるとし,これを達成するために何をすべきかが述べられています. 特に印象的だった点を以下に述べます.

書けないときどうする?

文章が書けなくなるというのは誰もがぶつかる壁だと思います.私も頭の中にあることを文字にできず,もどかしくなることが多々あります.この問題に対して著者は3つのヒントを述べています.

1. 状態を良くする

つまり書けなくなったら「いまは無理だな」と判断し、一時的に書くことをやめればいいのです。なぜって、書けないときはどう転がっても書けないものだから。そんなとき、抗うことはできないのです。

印南 敦史. 書評の仕事 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1108-1110). Kindle 版.

書けないときには無理をせず体を動かしたり睡眠をとったりして状態を良くすることに努めるべきです.

2. 自分の本当の気持ちを掴む

つまりは1:自分がなんのために書いているのかという自覚を持ち、2:なにが書きたいのかをとことんまで突き詰めるべきだということではないでしょうか?

印南 敦史. 書評の仕事 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1140-1141). Kindle 版.

私の場合,本を読んでいるときに共感したり新たな気づきを得たりした箇所があると,「この体験を共有したい!」と思い,文章を書きたいという気持ちが高まります.しかし,その瞬間がピークでいざ書き始めると思うように筆が進みません.この状態が「自分の本当の気持ちがつかめていない」状態なのでしょう.

印象的だった箇所について

  • なぜ印象的だったのか
  • 似たような経験があるのか?
  • 自分の考えと一致したのか?
  • どのような疑問が解消されたのか?

などの項目を検討することでなんのために書いているのか,なにが書きたいのかがわかってくると思います.

3. 文章を適切に分解する

「書きたいことはたくさんあるのに、それらを読みやすく伝えられるような文が書けない状態」に陥ってしまったときは,文章を適切に分解すればいいだけと著者は述べています.1文を簡潔にすることは文章を書くときの基本だと思いますが,筆が進まないときこそ基本に立ち返ることが重要なのかもしれません.

自信を持つ

著者は以下に示す編集者からの言葉が人生訓になっているといいます.

もっと自信を持って書けば?読んでると、『これを書いたらこう思われるんじゃないか』って怯えながら書いてるように感じるんだよね。でも、人がどう思うかなんてどうでもいいんだよ。君がそう思ったことが大切なんであって、だから極論であったとしても、断言しちゃっていいと思うんだ。

印南 敦史. 書評の仕事 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1481-1484). Kindle 版.

書き手の思いは文章に表れます.文章から自信のなさが伝わってしまうと読者はその内容を信じることができません.読者からの信用を得るには無理矢理にでも自信をもつ必要があります.

また,著者の印南氏は意外にも物事を論理的に考えることが苦手とのことです.漠然としたアタリはつけるが基本的に出たとこ勝負で執筆に望んでいるそうです.これを聞くと文章を書くことに対するハードルが下がるのではないでしょうか.

おわりに

本書ではタイトル通り,書評家という仕事について述べられています.そのため書評家の仕事内容や思考法を知りたい人におすすめです.

正直なところ,私が求めていた「書評の技術」に関する情報はあまり得られませんでした.「バランスが大事」「感覚を掴む」「センスとコツが重要」などと締められていることがあり,はっきりした結論を出していない箇所が多いように思えました.(文章に正解はないので断言することが難しいのかもしれませんが.)

そのため書評を書くための具体的な技術を求めている人は満足できないかもしれません.しかし,そういったところに著者の「ノリ一発」という書評の書き方が表れていると思います.

著者のこの考え方は書評を書くことに対するハードルを下げてくれました.書評は意外と自由に書いて良いものなんだということがわかり,気が楽になりました.

書評を書き始めたばかりの方はもちろん,書評に限らず文章が書けなくて苦しんでいる方にもおすすめの一冊です.

1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術 伊藤羊一

はじめに

「どうすれば人に伝わるのか」という疑問は誰しもが抱くと思います.私もわかりやすいプレゼン資料を作ろうとして様々なテクニックを調べて真似していましたが,最終的に「わかりやすさ」とは何かわからなくなってしまいました.そこでより根本的な核となる部分が知りたいと思い本書を手に取りました.

概要

本書では人に何かを伝えるための手法が単純明快に述べられています.難しい理論などはなく読むのに時間もかからないので,すぐにでも仕事や日常生活の場で活かすことができると思います.

著者は「相手に動いてもらうこと」が伝えることの目的であるとしています.これを達成するためには聞き手が納得できる「ロジック」はもちろん,聞き手の「感情」に訴えかける必要があります.前半は「ロジック」の組み立て方,後半は「感情」を揺さぶる方法および聞き手に動いてもらう方法について書かれています.

タイトルにある「1分で」というのは制限時間ではなく,1分もあれば伝えることができる(相手を動かすことができる)というニュアンスだと考えます.文中にも「どんな話でも1分で伝えることはできる」とあります.

本書には伝え方の基本が凝縮されているため,様々な場面で活用することができると思います. 特に印象的だったポイントを以下に紹介します.

3段のピラミッド

結論,根拠,事実からなるピラミッドを作ることでロジカルなストーリーを組み立てることができます.ピラミッドの頂点には結論があり,その下に説得力をもたせるための根拠が3つあり,さらにそれぞれの根拠の下に事実が2つずつぶら下がっています.このピラミッドを構築することで後々伝えたいことがぶれなくなります.

ピラミッドを構築するにあたり,まずは頂点となる結論を出す必要があります.結論を出すためには次項で述べる「考える」ことが重要になります.

考える=結論を出す

「考える」とは、「自分の中にあるデータや自分の外にあるデータを加工しながら、結論を導き出すこと」 伊藤 羊一. 1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.347-348). Kindle 版.

私が本書で最も印象に残ったのはこの部分です.

今まで私は思考の無限ループに陥ることが何度もありました.この現象は特にネガティブなことについて考え始めたときに顕著に現れました.その全てに共通するのは結論を出していないということです.結論を出せずに頭の中で同じことを何度も考え続けていたため,問題の解決に向かって動き出すことができませんでした.

著者は結論を出せずに頭の中でずっと考えが巡っている状態を「悩んでいる状態」と述べています.私自身は必死に考えているつもりでしたが,結局ただ悩んでいただけということになります.

「悩んで」いても結論は出てきません。この「無限ループ」を避けるためにも、機械的に「考える」=結論を出す習慣をつくるのです。そのために自分に問う。黄金の質問は、「だから何?」「ファイナルアンサー?」「本当か?」です。 伊藤 羊一. 1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.382-384). Kindle 版.

この状態から脱却するために著者は機械的に「考える」習慣を作ることを推奨しています.様々な要素を勘案すると無限ループに陥りやすくなると思うので,まずはとにかく結論を出すことを意識するのが良いと思います.

徹底的に準備する

伝えるのに必要な時間は1分ですが,その準備には時間を惜しんではいけません.

「相手を動かすためにできることは全部やる」ということは、そのための準備も徹底的にやりきるということです。 伊藤 羊一. 1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1102-1103). Kindle 版.

私は資料の出来にこだわって時間をかけすぎてしまい,ほぼぶっつけ本番で発表に臨むことがよくあります.しかし,それではやはり準備不足です.資料や話し方,身振り手振りなど事前に確認し検討できることはすべてやりきるべきです.そのためにも情熱を持って準備に取り組む必要があります.

「これから伝えようとしていることは、自分が一番詳しいし、自分はそのコンテンツに一番自信を持っているし、一番好きだ」くらい強い思いを持ち、その思いを聞き手にぶつけることが不可欠です。 伊藤 羊一. 1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1076-1078). Kindle 版.

局所的にこだわりだすと止まらなくなることもあると思うので,何にどれだけ時間を割くかの目安をある程度つけておくのも良いかと思います.

おわりに

他にも「なるほど!」となるようなポイントはたくさんあります.冒頭にも述べましたが,すぐにでも活用できる内容ばかりなのでぜひ読んでみてください.

ロボットが日本を救う 中山眞

著者は安川電機の元取締役会長です. 安川電機関連の本を探していてはじめに見つけたので読みました.

内容

将来,ロボット産業が少子高齢化,製造業空洞化,国際競争力の低下など日本が抱える諸問題の解決策となり得る,つまり「ロボットが日本を救う」と述べられています.

2006年発行なので紹介されているロボットは一昔前のものですが,産業用ロボットが発展していく過程は大変興味深いです.

安川電機の大ヒット製品の開発経緯も述べられています. もともと「メカトロニクス」という言葉は安川電機の商標で,その後商標権を放棄して一般に使われるようになったとのことです.

ロボットは「役に立つ道具」であるべき

著者は人間にとってロボットは「役に立つ道具」であるべきだと主張しています.そのため,人間が親しみやすいデザインではなく機能面を重視したシンプルなデザインでも十分だとしています.

つまり,わざわざ人型にする必要はなく,そのロボットの任務を果たすことができればそれで良いということです.

安川電機が開発したロボット「スマートパル」を例に挙げてその理由を説明しています.スマートパルはテレビや冷蔵庫のような人間の生活をサポートする道具として位置づけられているため,極めてシンプルなデザインを採用しています.

人間にあまりにも似すぎていると,使う側の人間がロボットに過剰な期待を寄せてしまうかもしれません.このロボットは人間と違う存在であって,なおかつオモチャではなく道具として使うものだということを体現するには,このぐらいの外見がちょうどよいのではないかと思っています. 中山眞 ロボットが日本を救う p.158

とあり,機能性や実用性を重視して開発されたことがわかります.

この考え方は私にとって新鮮でした.一般家庭で稼働するロボットは最終的に人間に近いデザインになると思っていました.

しかし,実用本位で考えればそのようなデザインは不要,むしろ人間がロボットに干渉するなどしてロボットの仕事を妨げる要因になると考えられます.

また,人間のような見た目をしていると倫理的な問題が発生しかねないので,道具として扱うことで法整備なども進めやすいのではないかと思います.

求められているロボットとは

著者のロボットに対する考え方は以下の一文に表れています.

ロボットは,人間にはできない仕事や辛い仕事を代わりにやってくれたり,人間の能力を維持向上したり,人間の手助けをすることで人間に幸せをもたらす存在でなければならないのです. 中山眞 ロボットが日本を救う p.111

そして,エンターテインメント向けのロボットよりも「家事ロボット」の開発に力を入れるべきだとしています.

この考えには概ね賛成です.

エンタメロボットの研究者が東日本大震災以降,レスキューロボットにも取り組み始めたという話を聞いたことがあります.

災害が多発し,情報が溢れ複雑化する社会で現在求められているのはまさに人間の役に立つ道具としてのロボットだと思います.

ただ,ソニーaiboのようにエンタメロボットは注目を集めやすく大ヒットする可能性を秘めています.

今後は人間の感性に作用するロボットへの需要も高まると考えられるため,優先度をつけるのは難しいと思います.

おわりに

専門用語には解説がついているので知識がない人でも読みやすくなっています. 産業用ロボットの開発過程が当事者の目線から書かれているので,ロボットに関わる人には特におすすめです.

魔法の世紀 落合陽一

著者について

著者の落合陽一氏はメディアアーティスト,筑波大学教員,実業家など多くの肩書を持ち,多方面で活躍されている方です.

私はTwitterで落合氏を知りました.夜通し作業やプログラミングをしつつテレビ番組にも出演されており,多忙な方だという印象を持っていました.

そんな落合氏がどのような考えを持っているのか気になったのでこの本を読みました.

魔法の世紀

著者は20世紀を「映像の世紀」とするならば,これから訪れる時代は「魔法の世紀」であると述べています.

どのように「魔法の世紀」へ転換していくのか,現在どのような変化が起きているのかをコンピュータ発達の歴史や自身の作品を踏まえて述べています.

本書で述べられる「魔法の世紀」で実現することはどれもSFのようですが,いずれも根拠があり納得出来ます.その根拠が著者が制作したメディアアートとなっているため説得力があり,大変面白いと思いました.

デジタルネイチャー

本書におけるキーワードの1つが「デジタルネイチャー」です.「魔法の世紀」が21世紀という「時代」を表した言葉なら,21世紀の「世界」を表した言葉が「デジタルネイチャー」であると述べられています.

デジタルネイチャーの時代にはすべてがコードによって記述されメディアはその都度生成されます.また世界にとって人間はアクチュエータに過ぎず,例えば人工知能の指示どおりに接客を行うようなインターフェースとして残っていきます.

さらに,生物の遺伝子をプログラミングし生まれた生命を3Dにプリントアウトすることで,キラキラ輝くショウジョウバエや街灯の代わりの植物のような不可思議な生物が実在するようになる可能性もあります.

突飛な話に聞こえるかもしれませんが,本書を読み終えた後には決して絵空事ではないということがわかると思います.

メディアアーティスト

また,本書ではメディアアート,メディアアーティストについての理解も深まります.

私はメディアアーティストに対して「テクノロジーを駆使してエモいものを作っている人」というイメージしかありませんでした.

しかし,この本を読んでメディアアートの役割の一つは鑑賞する人に未来の可能性を示すことだと思いました.

メディアアートは見るだけでも面白いですが,その作品の意義を知ることでより楽しめると思います.

学生の立場から

学生の立場からは線形代数やプログラミングに関する知識の重要性を感じました.これから訪れる未来でエンジニアとして何ができるか,どのようなスキルが必要になるかを考える必要があると思いました.

本書でも引用されていますが,SF作家アーサー・C・クラークが遺した「発達した科学技術は,魔法と見分けがつかない」という言葉の意味がよくわかる一冊でした.