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書評など

ジェフ・ベゾス 果てなき野望-アマゾンを創った無敵の奇才経営者

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はじめに

本書は言わずと知れた巨大IT企業,Amazonを一代で築いたジェフ・ベゾス氏の伝記です. Amazonが設立してから今日に至るまでの過程,ベゾスの性格や経営手法について詳細に記述されています. また,Amazonを代表するサービスであるAmazonプライムKindle,アマゾンウェブサービスAWS)誕生の経緯なども語られています.

ジェフ・ベゾスといえば昨年7月,同氏が設立した宇宙開発ベンチャーのブルー・オリジンが有人宇宙飛行に成功したことが話題になりました. www.nikkei.com 民間企業による宇宙旅行の実現に近づく大きな一歩です. 宇宙はベゾスが子供の頃から目指していた場所でもありました. 「ぶれずに進めば長期に渡って大きなことが成し遂げられる」 という彼の哲学を象徴する出来事だと思います.

ちなみに,本書の著者ブラッド・ストーン氏は2003年に当時ベゾスが極秘で進めていたブルーオリジンのプロジェクトをスクープした人物です. ビルの近くのゴミ箱からミッションステートメントの下書きを拾い出してスクープしました. そんな著者だからこそAmazonの歴史を網羅した本書が執筆できたのかも知れません.

狂気の人物

これまで私はベゾス氏に対してなんとなく穏やかそうな人だなという印象を持っていました. しかし,実際には「狂気の人物」という一面を持っているそうです. 彼は公の場ではユーモアあふれる魅力的な人物ですが,社内では厳しい要求を満足できなかった部下を激しく叱り飛ばすといいます. そんなベゾスの叱責の一部を紹介します.

「そんなアイデアをまた聞かされるようなら、首をくくらなきゃいけないな」 ブラッド・ストーン. ジェフ・ベゾス 果てなき野望-アマゾンを創った無敵の奇才経営者 (Japanese Edition) (p.248). Kindle 版.

「君はものぐさなのかい?それとも単に無能なのかい?」 ブラッド・ストーン. ジェフ・ベゾス 果てなき野望-アマゾンを創った無敵の奇才経営者 (Japanese Edition) (p.248). Kindle 版.

(意見書を読んだあと)「これはどう見てもBチームが書いたものだな。誰か、Aチームが書いたものを持ってきてくれないか。Bチームが書いた文書で時間を無駄にしたくないんだ」 ブラッド・ストーン. ジェフ・ベゾス 果てなき野望-アマゾンを創った無敵の奇才経営者 (Japanese Edition) (p.249). Kindle 版.

もし私が上司からこのような言葉をかけられたら,おそらく耐えられないと思います. 実際に心に傷を負いPTSDになった社員もいるようです. 著者はベゾスを 「共感力が欠如しているともいえるが, 裏を返せば感情や人間関係に左右されず超合理的に意思決定できる」 と評しています. スティーブ・ジョブズビル・ゲイツにも似た部分があるようなので,テクノロジー企業のトップには必要な素質なのかもしれません.

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ガゼルプロジェクト

ベゾスの性格は経営手法にも表れています. 2004年ごろ,Amazonは顧客第一の考えに基づき,できるだけ安い価格で本を顧客に提供できるよう出版社との交渉に力を入れていました. Amazon側の要求に同意しなければその出版社の本を「おすすめ」から外すと脅すなど強気の交渉を行っていました. そのときに始まったのが「ガゼルプロジェクト」です. これは弱小出版社からも徹底して好条件を引き出すというものです. チーターが弱ったガゼルを追い詰めるようにアプローチすることからガゼルプロジェクトと呼ばれました.

電子書籍についても顧客第一の姿勢を貫きます. 初代Kindle発売にあたり,ベゾスは人気書籍の電子版をすべて9ドル99セントで販売すると決定しました. このような低価格で販売すれば値段が高い紙の本は売れなくなってしまうことから出版社が反発することが予想されます. そこでAmazonはこの価格設定を出版社には伏せておきました. 重要な情報を隠したまま交渉を続けたのです. Kindle発売を宣言する記者会見の場でようやく価格設定が公表されました. このときにはすでに手遅れで出版社の上層部は一様にだまされたと悔しがりました.

ベゾスのやり方は出版社からすればたまったものではありません. しかし消費者にとっては低価格で本が読めるのは嬉しいことであるため,顧客第一の考えに基づき合理的な手法をとっているともいえます. 「共感力が欠如しているが,超合理的に意思決定できる」という彼の特徴が表れているエピソードです.

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パワポ禁止

有名な話ですが,Amazonでは会議の際にパワーポイントを使用していません. 提示したい内容はプレスリリース形式の「意見書」として文章で書くことを求めています. パワーポイントについてベゾスは以下のように述べています.

「パワーポイントというのは、コミュニケーション手法としてとてもおおざっぱです。箇条書きにしてしまえば、いろいろなことが簡単に隠せます。パワーポイントなら、自分の考えを徹底的に表明する必要がありません」 ブラッド・ストーン. ジェフ・ベゾス 果てなき野望-アマゾンを創った無敵の奇才経営者 (Japanese Edition) (p.245). Kindle 版.

一般にパワーポイントの資料では伝えたいことを絞り,文字を少なくして見やすくするほうが良いとされています. この方法は,より多くの人に効果的に意見を伝えることができますが,一方で 聞き手が「理解した気になってしまう」危険性 があります. スライドに載っていない情報について聞き手は都合の良いように捉えてしまう恐れがあるのです. パワーポイントは便利なので普段はあまり意識しませんが,デメリットがあることも認識すべきです.

おわりに

本書はAmazonの歴史やジェフ・ベゾスについて網羅的に紹介されています. そのため全体的にボリュームがあり,多数の登場人物の関係性を把握するのは大変でした. 途中から登場人物は気にせず,ベゾスの考え方や経営手法だけ注意して読んでいましたが,それでも面白かったです. 普段何気なく利用しているサービスが誕生した経緯を知ることで,新たな発見があるのではないでしょうか.