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書評など

「かんじんなことは、目に見えないんだよ」星の王子さま

かわいらしい素朴な絵

星の王子さまといえば表紙の絵が思い浮かぶ. 小さな星の上に立っている金髪の男の子の絵だ.

本書の挿絵は著者のサン=テグジュペリが描いたものだ. 多くの出版社で表紙はこの絵になっているから印象に残っていたようだ.

この挿絵がとにかくかわいい. 本書の魅力の一つだと思う. 作中でも言及しているとおり決して上手ではないが素朴で味がある. やけに細長いキツネだなと思っていたら絵を書いた作中の「ぼく」も同じことを言っていた.

小さな星での暮らし

王子さまは小さな星に住んでいたが,様々な星を旅して最後に訪れた地球で「ぼく」と出会った. 「ぼく」は王子さまが住んでいた星を小惑星B-612番だと述べている. これは架空の星だが,本作に由来してB612と名付けられた小惑星があるらしい.

ja.wikipedia.org

星での暮らしは微笑ましくロマンチックだ.

王子さまは小さな火山の煤払いをしたり,花に水をあげたり,バオバブが小さいうちに引っこ抜いたりしている. 王子さまが住んでいるような小さな星々ではバオバブの木は厄介者扱いされている. バオバブが大きくなると,その根っこにより星が破裂してしまうのだ.だから小さなうちに取り除かなければならない.

そして小さな星では,座っている椅子を少しずつ動かすだけで夕焼けの空を何度も見ることができる.

「ぼく、いつか、日の入りを四十四度も見たっけ」そして、すこしたって、あなたは、また、こうもいいましたね。「だってかなしいときって、入り日がすきになるものだろ」 サン=テグジュペリ; 内藤 濯. 星の王子さま (岩波少年文庫) (Kindle の位置No.416-419). 株式会社 岩波書店. Kindle 版.

一日に何度も日の入りを見れるのは贅沢だと思う一方,感動が薄らいでしまいそうな気もする.

「おとなって,へんなものだなあ」

王子さまが旅の途中に訪れた星々で出会った大人たちは風変わりな人ばかりだ. 褒める言葉しか耳に入らないうぬぼれ男. 酒を飲む恥ずかしさを忘れるために酒を飲み続ける呑み助. 忙しそうにひたすら星を数え続ける実業家など.

王子さまは彼らに対して「おとなって,へんなものだなあ」と思っており,私も同じように感じていたが,次第に私自身にも当てはまる部分があるのではないかと思えてきた.

例えば忙しそうにひたすら星を数え続ける実業家. 王子さまが話しかけても,自分は大事な仕事をしていて忙しいからとなかなかかまってもらえない.

その仕事とは星の数を紙に描いてそれを引き出しの中に入れ鍵をかけること. 星を自分のものにするために数えているのだという. はたから見れば無意味な作業を続けているように思える.

そんな実業家に対して王子さまは言う.

「ぼくはね、花を持ってて、毎日水をかけてやる。火山も三つ持ってるんだから、七日に一度すすはらいをする。火を吹いてない火山のすすはらいもする。いつ爆発するか、わからないからね。ぼくが、火山や花を持ってると、それがすこしは、火山や花のためになるんだ。だけど、きみは、星のためには、なってやしない」 サン=テグジュペリ; 内藤 濯. 星の王子さま (岩波少年文庫) (Kindle の位置No.933-939). 株式会社 岩波書店. Kindle 版.

たしかに王子さまの言う通り,星を数えて自分のものだと主張するよりも花に水をやったり火山が爆発しないように煤払いをすることが星のためになっていそうで,大切な仕事のように思える.

普段何気なく働いている私もこの実業家と同じではないかと思った. いつもやっていることは本当に大切なことではなく,「これは難しくて大事な仕事なんだ」と自分に思い込ませて忙しがっているだけかもしれない.

かんじんなことは目に見えない

では「本当に大切なもの」とは何か?

明確な答えを出すことは難しいが,たまには考えてみると新たな発見があるかもしれない. 大切なものについて王子さまは仲良くなったキツネから次のように教わる.

「さっきの秘密をいおうかね。なに、なんでもないことだよ。心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」 サン=テグジュペリ,内藤 濯. 星の王子さま (Japanese Edition) (p.124). Kindle 版.

大人は数字や外見でものごとを判断しがちだが,それでは本質を見極めることはできないのだろう. 序盤に「ぼく」が語った以下の話は子どもと大人の視点の違いを表している.

おとなの人たちに〈桃色のレンガでできていて、窓にジェラニュウムの鉢がおいてあって、屋根の上にハトのいる、きれいな家を見たよ〉といったところで、どうもピンとこないでしょう。おとなたちには〈十万フランの家を見た〉といわなくてはいけないのです。すると、おとなたちは、とんきょうな声をだして、〈なんてりっぱな家だろう〉というのです。 サン=テグジュペリ,内藤 濯. 星の王子さま (Japanese Edition) (p.31). Kindle 版.

王子さまの言動は子どものわがままのようにも思えるが,大人になるにつれ忘れてしまった感覚や考え方を思い出させてくれる.

目の前のことで手一杯になっている日々のなかで,少し立ち止まって「本当に大切なもの」について考えてみるのもよいだろう.

宇宙を旅する王子さま(想像)